小説家志望 涼歌・サー・キッドの本の本当のところ

年間100冊を目標にするわたくし、涼歌の涼歌による涼歌のための本の感想ブログ。たまに自作小説も掲載予定。

【第10回】斜陽(8/14読了)

こんばんは、涼歌です。

今回は、太宰治の「斜陽」です。

 

貴族一家の没落していく様を描いていますが、一方で、貴族としての誇りのようなものを最後まで捨てなかったところが印象的でした。

 

個人的には主人公の弟の「直治」がとても繊細で、今の自分と重なる部分がたくさんあって、胸を打たれました。(私はけっして貴族でも金持ちでもありませんが)

・突然、直治が、めそめそと泣き出して、「なんにも、いい事が無えじゃねえか。僕たちには、なんにもいい事が無えじゃねえか」と言いながら、滅茶苦茶にこぶしで眼をこすった。

 

とりわけ、自殺した直治が姉に向けて書いた手紙の内容に圧倒されます。いろんな女をとっかえひっかえしている、一見すると自由に好きなように生きている直治が、実は生きることに対して多くの葛藤や苦しみを抱えていたことが繊細に綴られています。

・僕は、僕という草は、この世の空気と陽の中に、生きにくいんです。生きて行くのに、どこか一つ欠けているんです。足りないんです。いままで、生きて来たのも、これでも、精一ぱいだったのです。

・僕は下品になりたかった。強く、いや強暴になりたかった。そうして、それが、所謂民衆の友になり得る唯一の道だと思ったのです。お酒くらいでは、とても駄目だったんです。いつも、くらくら目まいをしていなければならなかったんです。そのためには、麻薬以外になかったのです。

・人間は、みな、同じものだ。なんという卑屈な言葉であろう。人をいやしめると同時に、みずからをもいやしめ、何のプライドも無く、あらゆる努力を放棄せしめるような言葉。

・僕は、遊んでも少しも楽しくなかったのです。

・僕は、奥さんの他の女友達を、いちどでも、美しいとか、いじらしいとか感じた事が無いんです。

 

これらを言葉で上手く表現しているところに、本作の神髄があると思います。この文章を模写するだけで、私は涙が止まらない。

結局人間は、生まれもって身につけた能力だとか素質、また家柄といった垣根を超えることはできないのか。そこを太宰治は本作で読者に問いかけていると私は解釈しました。

私は、生まれ持った身分や能力、素質は努力次第で乗り越えられるものだと信じたい。もしそれが否であるならば、私たちが生きる意味は全くないのではなかろうか。

 

■評価(10段階、5が平均)

★?…評価するにはあまりに深すぎる。一度読んだだけでは、この小説の百分の一程度も理解できていないと思うのです。

 

ではまた。

【第9回】平面いぬ。(8/13読了)

こんばんは、涼歌です。

今晩は涼しい夜ですねえ。私の名前にぴったりだと思いませんか?(ちなみに読者はほとんどいませんので、返答はありません)

 

今回も乙一さんです。乙一さんの小説すき過ぎです。

本作は四本立てです。「石ノ目」「はじめ」「BLUE」「平面いぬ。」です。

石ノ目を除いてはホラー要素はかなり薄いです(ほぼ皆無)。ですが、全てファンタジー要素が満載でございます。

・石ノ目…その目を見ると、たちどころにして石になってしまうという噂の女(石ノ目)を題材にしたお話。昔の化物語でも読んでいるかのよう。

 

・はじめ…主人公と友人の木園が作りだした空想上の人物「はじめ」。しかし、二人にだけその姿形が見えるようになって・・。ホラーではありません。とても切ないストーリーでした。

 

・BLUE…動く人形のお話です。主人公のブルーだけ、他の人形と違って雑に作られており、そのため様々な不遇を受けます。トイストーリーをもっと残酷にしたような感じですが、かなり泣けます。個人的に一番響きました。すごくいい。

 

・平面いぬ。…左腕に彫った3センチ大の犬のタトゥーが生命を持って、身体中を動き回ったり、ほくろを食べてしまったりするお話です。家族の大切さを描いていますが、少し御都合主義的な強引な感じはありました。しかし、オチもしっかりあってさすが乙一さんと思いました。

 

■評価(10段階、5が平均)

★8…一つ一つのストーリーがしっかりしてます。やはり乙一さんの作品はホラーないし残酷系よりも、切ない系の方が、私は好みです。

 

ではまた。

 

 

 

 

【第8回】夜は短し歩けよ乙女(8/12読了)

こんにちは、涼歌です。

今日は森見登美彦さんの、「夜は短し歩けよ乙女」です。

 

最初は「なんだ、この癖の強い読みにくい小説は」と思っていたのですが、、、だんだん森見ワールドに引込まれていったのでした。

 

大正ロマンを彷彿とさせるような言葉遣いや人々の描写、ところどころに姿を現す、妖怪のようなファンタジックなキャラクターたち。

私の頭の中では、「めぞん一刻」のキャラクターを「千と千尋の神隠し」の舞台で遊ばしている情景が自然と浮かんでおりました。

 

主人公→五代(主人公)+三鷹(ライバル)

ヒロイン→こずえちゃん(天然なところ)

羽貫さん→一ノ瀬さん(太ったおばちゃん)+あけみちゃん

樋口氏→四谷氏(変なおじさん)

ぱっと思いついただけでも、これらのキャラクターが自分の中ではかなりダブる。

とはいえ、めぞん一刻含め、高橋留美子ワールド(らんまとか、うる星やるらなどのラブコメ)はかなりすきなので、この「夜は短し歩けよ乙女」についても、楽しく拝見することができました。特に、ヒロインの女の子の天然具合がとてつもなく可愛かったです。(世界ぼーっと選手権うんぬん)

 

繰り返しますが、樋口氏が羽貫さんのためにヒロインが買ってきたプリンを勝手に食べ出すところ。あれは間違いなく、めぞん一刻の四谷氏と同じ行動パターンです。

著者はかなりの影響を受けていると見て間違いないはずです。どちらの作品もとてもすばらしく、とても心のほっこりする作品でございました。

 

■評価(10段階、5が平均)

★7…読書メーターのレビューなどでもよく書かれているが、人によって好き嫌いが分かれるものと思われる。気楽な気持ちで読みたい方におすすめ。

 

ではまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【第7回】変身(8/7読了)

おはようございます。涼歌です。

 

今回は、言わずと知れたフランツ・カフカ著の「変身」です。

 

ある朝、主人公のグレーゴルが目を覚ますと、自分が巨大な虫に変わっていることに気がつく。自分の発する言葉は両親や妹などの人間には全く伝わらず、しまいには家族にも煙たがられ・・。結局、グレーゴルが虫になってしまった原因も明かされず、読者としては消化不足と言わざるを得ない。

 

世界最高傑作の一つだとか言われるが、面白くも何ともないし、そもそもなぜ虫になった原因を明かさないのかわからないし、普通巨大な虫が現れたら、警察や軍隊に報告して駆除するだろ?としか思えない。

設定が斬新なだけでは、と個人的には思うが。

 

何やら色々な解釈がなされているみたいだが、要するに「世の中は突然思いもよらないことが起こる理不尽な世界である」ことを著者は言いたいのであろうか。

 

■評価(10段階、5が平均)

★4…世界的に評価されるだけに一見の価値はあると思う。が、先述したように消化不良は否めない。

 

ではまた。

 

 

 

 

【第6回】彼岸過迄(8/9読了)

夏休みです。涼歌です。

 

今回は言わずと知れた夏目漱石さんの「彼岸過迄」です。

この作品の名前は知っていたものの、実際に手に取って読んでみるのはこれが初めてでした。(恥ずかしながら、どのようなストーリーなのかすら知らず、、)

 

物語はいくつかの章に渡って構成されているものの、統一性に欠けている印象があった。「敬太郎」が主人公だと思わせといて、この作品の本当の主人公は「市蔵」ではないかと思う。昔馴染みのいとこ「千代子」に対して、俗に言う男女における愛情はないものの、他の男と仲良くしているのを見て嫉妬心を抱くという、身勝手な男心が精緻に描かれている。

 

「こころ」を読んで、さらにこの「彼岸過迄」を読んで感じたことだが、漱石の作品に出てくる主人公の「友人」は、学力的には秀でているのにもかかわらず、恋に対して非常に臆病で繊細な男が多い。なまじ頭が良すぎる分、論理的に説明できないことに対して、異常なまでの恐怖心に似た感情を過敏に抱く。

 

特に文中で市蔵が語る次の文章が印象的だ。

「白状すると僕は高等教育を受けた証拠として、今日まで自分の頭が他より複雑に働らくのを自慢にしていた。ところが何時かその働きに疲れていた。何の因果でこうまで事を細かに刻まなければ生きて行かれないのかと考えて情なかった」

これを踏まえて先述した言葉を修正すると、学力的に秀でているからこそ、あらゆる物事に神経的に過敏にならざるを得ない、ということか。

この作品が描かれて約100年経った今にも通ずることだが、やはり「学力がある(頭が良い)=幸せ」とは限らないのだと、改めて感じた。

 

「こころ」とは違い、自殺にまで至らなかっただけ、この作品の「友人」は救われているように感じる。(こころの方が、後に描かれた作品だが)現代人は精神的に辛くなったとき、彼岸過迄の市蔵のように上手く息抜きをして、自殺を回避せねばならない。

今の環境だけが全てではない。

 

■評価(10段階、5が平均値)

★6…市蔵と千代子の物語以外が蛇足に感じてならない。

 

では、この辺で。

 

 

 

 

【第5回】失はれる物語(7/19読了)

涼歌です。

 

そしてまた乙一さんの小説です。すきです。

物語はオムニバス形式で展開されます。中でも「傷」について
言及したいと思います。


人の傷を自由に移動することのできる能力を持つ「アサト」と
粗暴だが心根は優しい主人公の「オレ」を中心に物語は進む。
両方とも家庭環境は複雑。アサトの母親は、息子であるアサトと
心中しようとするし、一方のオレの母親は息子を残していなくなり、
乱暴する父親は寝たきり。 
ここまで小学生の子供を苦しめるかっていう設定。

内容ですが、アサトが良いやつ過ぎて泣ける。母に裏切られ、
顔の火傷を期間限定で引き受けてあげたシホには逃げられ。
そして幼いその身体でありとあらゆる傷を引き受けて、彼の身体は
ボロボロになる。 
そうやって人の痛みを引き受けてあげられることは、とても
すばらしいこと。悲しいけど。
また、主人公も良いやつ過ぎる。
アサトのことを思いやって、アサトのことを必死に救おうとする。
最後、アサトと傷を「はんぶんこ」できてよかった。アサト一人が背負い
込むようなことにならなくて本当によかった。

人の(文字通り)痛みを理解することの大切さを改めて実感させられる
傑作。何より、この短編でここまでの世界観を描き切っていることに脱帽。

これほどまでに熱い友情を、僕は現実世界に求めたい。
僕は友情に飢えている。本当に現代は冷めている。

余談だが、映画版と違い、シホがアサトを裏切ってそのままずっと
いなくなるのが、妙に現実的に感じる。

 

■評価(10段階、5が平均値)

★7…「傷」に限らず、「失われる物語」や「Calling you」も良い。

 

以上、今日はこのへんで。
 

【第4回】死にぞこないの青(7/22読了)

涼歌です。

今回は、乙一さんの小説「死にぞこないの青」です。
※読了時期が色々と前後していますが、あしからず。


生徒からの信頼と教室の秩序を守りたいという理不尽な理由から、「羽田先生」は「僕(マサオ)」を吊るし上げ、いじめの標的に仕立て上げる。

そんなマサオの前に「アオ」という得体のしれない存在が現れる。
右目は接着剤で塞がれ、唇には紐が通され、片耳と頭髪がない。顔は真っ青。だから「アオ」。
※今書いてて気がついたけど、真っ青→まっさお→マサオなのか?(遅い?)

最初は全て先生の言うことが正しくて、自分が間違えていると思い込んでいたマサオだった。しかし、アオに諭されるうちに、いつしか先生を殺さなければと考えるようになり、、、というお話だ。

とにかくもう、この羽田先生の理不尽具合が非常に不愉快。
授業を長引かせる理由もマサオのせい。宿題を出す理由もマサオのせい。
宿題をしてきても、重箱の隅をつつくように細かい部分を指摘し、
また完璧に解いたら解いたで、「だれか他の人に解いてもらったでしょ」
とマサオのことを一向に信じない。
物語だとは頭で理解していても、「アオ、先生をどうにかしてくれ」
と願わずにはいられない。
物語終盤でマサオが優位に立つシーンになって、フラストレーションは
ある程度解消される。
 
ストーリーとしての系統は「夏と花火と私の死体」に近いのかな・・?
個人的には「さみしさの周波数」とか「暗いところで待ち合わせ」とか
の方が泣けてすきだけど。

ストーリーとは直接関係ないが、作家を志す身としては、あとがきの文章で非常に勉強になった文章があるので、紹介したい。

『作中で主人公がおよそ子供らしくない語句を用いて思考していますが、
その点についてツッコミを入れられたらどうしようかと思っています。
僕は基本的に、語り手の年齢が低くてもあまり気にせず地の文ではさまざまな言葉を使用しています。それは、「言葉」そのものは幼いために知らなくても、その「言葉」が意味するものは名づけられないまま頭の中に収まっていて思考しているにちがいないと受け止めているからです』

この言葉を受けて、私は書く幅が広げられそうな気がします。

■評価(10段階、5が平均値)

★6…内容としてはスラスラ読める。かなり読みやすい。


今回はここまで。