小説家志望 涼歌・サー・キッドの本の本当のところ

年間100冊を目標にするわたくし、涼歌の涼歌による涼歌のための本の感想ブログ。たまに自作小説も掲載予定。

【第15回】くちびるに歌を(9/6読了)

こんばんは、涼歌です。

雨がすごい。。@TOKYO

 

今回は中田永一乙一)さんの「くちびるに歌を」です。

正直なところ、はじめさほど期待をしていなかったというのが本音

です。もちろん、中田永一さんの作品はとても好きなのですが、最近

乙一」名義の作品をずっと読んで乙一色に染まっていたので、

中田永一」色に馴染めるか不安だったのです。

 

しかし、そんな不安をこの作品は見事に払拭してくださいました。

 

物語は、二人の目線から交互に展開されます。

一人目が中学三年生の少女、仲村ナズナ

そして二人目が同級生の少年、桑原サトル。

 

ナズナ目線のストーリーも悪くはないのですが、私個人としては

サトル目線のストーリーに強く心惹かれました。

 

人の迷惑になるまいとする健気な姿。

ひょんなことから合唱部に入部することになり、そこでの仲間たちとの出会い。

自閉症の兄に対する心遣い。

思いを寄せる長谷川コトミを守るために見せた男気。

 

とくに、終盤の「十五年後の自分に当てた手紙」は圧巻でした。

『兄のことを心のよりどころにして、僕は自分をたもっていたのです』

彼は自分の未来が決まっているという。兄から必要とされ、兄のために

生きること。それが自分の決まった人生だと。しかし彼はそれを悲観する

ことはありません。むしろ心のよりどころとしているのです。人から必要と

されることを嬉しく思っているのです。

ただ一方で、こうも書いています。

『でも、たまに、みんなのことがうらやましくなるのです。

生きている理由を、これから発見するため、島を出て行くみんなのことが』

彼の葛藤がとてもよく描かれていると感じました。決して悪い事をしている

わけでもないのに、ぼそっと自分の罪を告白する姿が私の中へ切なさを

運んできました。もっと貪欲に生きてほしい。そう思ってしまいました。

 

※勝手なイメージですが、この自分にあてた手紙が、なんだか太宰治が書きそうな

 文章にありそうだなぁと感じました。同じ感想持たれた方います?

 

 

■評価(10段階、5が平均)

★8.5…すぐさま映画も観ましたが、映像としての優位性を差し引いても

     すごく良い作品でした。