小説家志望 涼歌・サー・キッドの本の本当のところ

年間100冊を目標にするわたくし、涼歌の涼歌による涼歌のための本の感想ブログ。たまに自作小説も掲載予定。

【第5回】失はれる物語(7/19読了)

涼歌です。

 

そしてまた乙一さんの小説です。すきです。

物語はオムニバス形式で展開されます。中でも「傷」について
言及したいと思います。


人の傷を自由に移動することのできる能力を持つ「アサト」と
粗暴だが心根は優しい主人公の「オレ」を中心に物語は進む。
両方とも家庭環境は複雑。アサトの母親は、息子であるアサトと
心中しようとするし、一方のオレの母親は息子を残していなくなり、
乱暴する父親は寝たきり。 
ここまで小学生の子供を苦しめるかっていう設定。

内容ですが、アサトが良いやつ過ぎて泣ける。母に裏切られ、
顔の火傷を期間限定で引き受けてあげたシホには逃げられ。
そして幼いその身体でありとあらゆる傷を引き受けて、彼の身体は
ボロボロになる。 
そうやって人の痛みを引き受けてあげられることは、とても
すばらしいこと。悲しいけど。
また、主人公も良いやつ過ぎる。
アサトのことを思いやって、アサトのことを必死に救おうとする。
最後、アサトと傷を「はんぶんこ」できてよかった。アサト一人が背負い
込むようなことにならなくて本当によかった。

人の(文字通り)痛みを理解することの大切さを改めて実感させられる
傑作。何より、この短編でここまでの世界観を描き切っていることに脱帽。

これほどまでに熱い友情を、僕は現実世界に求めたい。
僕は友情に飢えている。本当に現代は冷めている。

余談だが、映画版と違い、シホがアサトを裏切ってそのままずっと
いなくなるのが、妙に現実的に感じる。

 

■評価(10段階、5が平均値)

★7…「傷」に限らず、「失われる物語」や「Calling you」も良い。

 

以上、今日はこのへんで。