小説家志望 涼歌・サー・キッドの本の本当のところ

年間100冊を目標にするわたくし、涼歌の涼歌による涼歌のための本の感想ブログ。たまに自作小説も掲載予定。

【第12回】天帝妖狐(8/24読了)

こんばんは、涼歌です。

今日はもう寒すぎますね。8月とは思えないです。

 

今回は、乙一さんの「天帝妖狐」です!

表紙がお稲荷さんの怖い絵なので、ホラー作品だと思いながら読みはじめました。

割と初期の作品らしく、乙一さんには珍しく、やや荒削り感を感じたのは私だけでしょうか。他の作品が高いレベルでまとまっているだけに、やや格落ち感を感じました。(とは言え、十二分に楽しんでいるのですが)

 

収録されている2作品のうちで印象的だったのは、表紙のタイトルと同じ「天帝妖狐」

でした。

大まかなあらすじですが、少年期に主人公「夜木」はコックリさんをすることで

「早苗」という名の狐(?)に取り付かれ、ある時「四年後に死ぬ」という予言を

受けます。早苗の予言は絶対に外れません。しかし主人公は死にたくない。そんな

とき、早苗は夜木に話を持ちかけます。「私の息子になれ。そうすれば永遠の命を

与える」と。死にたくない夜木は、深く考えることなくその話を受け入れ、永遠の

命を授かるのです。しかし、ここからが悲劇の始まりでした。

夜木が怪我をする度に、その部分を早苗は夜木から奪っていくのです。奪われた部分

が次第に増えていき、夜木は人間とは言えない姿になっていきます。(どんどん狐?の

姿に近づいて行く)

時は流れ、夜木は絶望の淵に立たされていました。いくら自殺しようとしても

死ぬことができない。一方で、怪我をするごとに人間らしい部分が奪われていく。

人はおろか、あらゆる生物が夜木に近づこうとはしませんでした。

そんな時、夜木は一人の少女(杏子)と出会います。杏子は夜木に優しく

してくれました。家に泊まらしてくれました。仕事を探してくれました。

人として扱ってくれました。それが夜木にとって、大変幸せでした。

もう一生、人に優しくされることはないと思っていたのですから。

しかし、そんな幸せも長くは続きません。

その地区をしきる秋山という乱暴者に夜木は目をつけられます。夜木は

その姿を隠すために包帯を至るところにしていたからです。包帯をとる

ことを拒否した夜木は、秋山の怒りに触れますが、返り討ちにします。

(人間から離れていくほど、力が強くなっていた)

しかしそれがさらに秋山の逆鱗に触れることとなり、夜木は車でひかれ、

埋められることとなります。そのことにより、夜木はさらに人間としての

部分を失いました。暴走した夜木は秋山の四肢を一つずつもぎ取り、じわ

じわと処刑をしようとしますが、秋山の「神様」という祈りの言葉を聞いて

我に返ります。

そんな人間としての尊厳を失うことに絶望を感じながら、幸せを与えてくれた

杏子に手紙を書いて別れを告げるという物語です。

―さようなら、ありがとう、私に触れてくれた人。

 

あぁなんて切ないのだろう。

死にたくても死ぬことができない。一方で、自殺をして自らを傷つけることで

人間としての身体を失っていく。そして人間からは敬遠され、どんどん孤独のスパイラル

へとはまっていく。せめてフランツ・カフカの「変身」の主人公のように、衰弱して死ぬことができれば、いくらか救われるだろうに。死ぬことさえ許されない。とても理不尽なものである。

 

一方で、心だけは早苗に乗っ取られまいともがく夜木の姿がこれまた切ない。

たまたまだと思うが、この点の描写については、つい先日読んだ東野圭吾の「変身」の設定と似ているような気がしました。

・天帝妖狐:狐(早苗)に精神を乗っ取られまいともがく姿

・変身:ドナーに精神を乗っ取られまいともがく姿

 

ところで「早苗」という名前に何か意味はあるのでしょうか。

知っている方教えてくださいませ。

 

■評価(10段階、5が平均)

★6.5…作品は良いんですけど、夜木が気の毒で仕方ない。

 

ではまた。